◆息吹く春の山行き

 今年の初登りをしてきました。ベランダから毎日のように眺めている野坂岳(914m)です。

 山全体を包んでいた雪が、桜の開花を待っていたかのように日ごとに嵩を低くしました。内心うずうずしていたのです。

 3月31日。見上げる山はまだかなりの残雪でしたが、好天に誘われて車を飛ばしました。15分で登山口へ。すでに7、8台が駐車していました。
 
 いつものように30分ほどはゆっくりした足取りです。横を流れる渓流はほとばしり、雪解け水を集めて意気軒昂、元気はつらつです。

 小休止する水飲み場。谷を下る水はひしゃくをはね飛ばさんばかりの勢いで落下します。そばの地蔵さんがにこやかに迎えてれました。

 ここからが本格的な登りになります。やがて水音がウグイスの合唱に変わりました。「ホー、チョ」。何とも下手くそなさえずりです。
 ただいま特訓中。新緑が鮮やかになる5月ごろには成果が聞けるでしょう。

 木々の枝先に息吹が見て取れます。小さな薄緑の芽がいまにも葉を広げようと頑張っていて健気です。

 足下にも小さな命がびっしりと生まれています。地面にへばりつくように葉を開いたイタドリやドクダミなど。幼いながらたくましさを感じます。

 登山道のところどころに残雪があり、それを踏みしめながら歩を進めます。立ち止まって汗をぬぐう、その頭上で「ホーケチョ」。先ほどよりは少し大人びていました。

 急坂の連続は一の岳まで。お茶を飲んでひと休みします。眼下の敦賀市は春霞に包まれ、奥越地方の白い山並みがぼんやりと浮かんでいます。残念なことに白山は望めませんでした。

 起伏を楽しみながら、さらに進むと残雪が行く手を覆っていました。700m辺りからは雪渓を歩く感じになってきました。

 雪面が春陽にきらきらしています。深く落ち込んだ足跡がありました。分厚い残雪の下では活発な雪解けが進んでいるようです。

 ふと見上げる枝先には小さな膨らみがついているだけです。途中で見てきた芽吹きが1、2歳児なら、ここのつぼみはまだ胎児といったところ。でも、出番はもうすぐです。

 木々の根元だけは雪がとけて、地面が丸い顔を出しています。地面には笹がまとわりついたりしています。すごい生命力です。

 登山道の雪は消えただろう、と高をくくって登り始めたわけですが、これは大甘でした。

 残雪の道は頂上付近まで続いていました。私の好きな二の岳から三の岳に至る尾根道も雪に埋まっていました。

 カンジキが必要なほどではありませんが、歩きにくいことは確かです。くるぶしまで埋まりながら、何とか頂上に達しました。

 いつもより20分ほど余計にかかりましたが、2時間あまりの登りはあちこちで息吹の元気を頂戴しました。頂上でほおばる大きな握り飯は格別の美味さです。

 雪道の下りもまた歩きにくいものです。ずるずると半ば滑りながらの下山。尻餅を1度だけつきました。

 残雪を踏んで登ってくる人たちに出会って交わす「こんにちは」の挨拶。春陽のように明るく弾んでいます。山ではみんなが心やすくなれるようです。

 スミレがぽつりぽつりと花を咲かせていました。でも、写真に撮れるほどの量ではありません。水飲み場に近くに白い花が咲いていました。
 山の雪が消えるころ、路傍には色とりどりの花が見られます。じっと時機到来に備えているはずです。

 「今日も無事に登ることができました」。お地蔵さんに手を合わせ、駐車場に下りたら小雨が落ちてきました。

 良い山歩きでした。命の息吹に元気を授かったのですが、残雪の演出まであって春の山の魅力をたっぷり楽しむことができました。

 さて、次ぎに登るときは、どんな演出を見せてくれるのでしょうか。「山歩きはやっぱりいいですね」。当分は、とぼとぼと1人歩きを続けることになりそうです。