◆テロとKAMIKAZE

 世界中を震撼させたアメリカの同時多発テロ。そのニュースに接したのはトルコの黒海沿岸の町、トラブゾンででした。

 郊外の絶壁に建つスメラ修道院を見学して、夕刻ホテルに戻りました。
 
 現地の男性5、6人が玄関前の日陰で休んでいましたが、そのうちの1人がすっくと立ち上がり、「ジャポン、カミカゼ」と言いながら近寄ってきました。

 右の手のひらを水平に横滑りさせ、それを45度ほど下に向け、最後は両手を広げて何かが弾けるようなポーズをとりました。
 その後、もう1度「ジャポン、カミカゼ」と発しました。

 訳がわからず、「冷やかしにもほどがある」。ムッとしました。

 くだんの男性は、こちらの気持ちなどおかまいなしに、隣のガラス張りオフィスを指さしました。

 トルコ航空の事務所なのですが、テレビの前の男性が手招きしています。引き込まれるように事務所に入り、テレビの画面を見て仰天しました。

 摩天楼に飛行機が突っ込んで、爆破する場面が飛び込んできたのです。

 職員の1人が早口の英語で状況を説明し、「ワカリマシタカ」と言ってくれましたが、とんでもないテロ事件が発生したらしい、という程度しか理解できませんでした。

 「ペンタゴン(国防総省)もやられた」。とにかく、周辺は興奮の極みです。

 夕食どき、現地のガイドが状況を説明してくれました。この段になって、男性が叫んだ「カミカゼ」の意味がようやくわかりました。

 翌日はトラブゾン国際空港からイスタンブールへフライトします。

 離陸できるのかどうかの不安もあり、深夜までテレビを見ていましたが、トルコ語ですから映像を眺めるだけでした。

 翌日の新聞はテロのニュース一色でした。

 いくつもの新聞を抱えた人、道端に座り込んで読みふける人、チャイを飲みながら見開きのページに目を落とす人…。関心の高さをうかがわせる光景です。

 その中で驚いたのが、ある新聞の見出しです。「Pearl Harbor」の大きな文字が踊っていました。

 真珠湾攻撃並の奇襲作戦、と唱っているのです。
 
 テロ犯はハイジャックした航空機もろとも突っ込んだのです。

 「パールハーバーはないよな」。日本人としては恥部に触れられたようた気分ですが、トルコの人々にはかっこうな表現方法と写ったのでしょう。

 さらに驚いたことには、テロの関連ニュースに「KAMIKAZE」のワッペンを配した新聞があったことです。

 地元では一流紙といわれる新聞ですが、ページを開くたびに「KAMIKAZE」が現れます。

 本家本元の日本では「神風」を知らない世代が増えているのに、遠いトルコでは子供たちさえ「ジャポン カミカゼ」とはやしていました。

 今日もまた「KAMIKAZE」ワッペンが、人々の目にさらされているのでしょうか。

 日本軍の愚行が60年経った現在も引き合いに出される。これが歴史というものなのでしょう。

 ワッペンを見ながら憂鬱な気分にさせられました。