◆「すいせん・まんじゅう」

 その土地、土地に郷愁を誘う風物詩があります。

 私が住む福井県嶺南地方で、夏の風物詩として真っ先に挙げられるのは「すいせん・まんじゅう」だと思います。

 「水洗」とも「水仙」とも、また「すいせん」とも書かれています。

 水洗と書けば、「なに?。まんじゅうを水洗いして、どないするねん」。
 水仙と書けば、「越前スイセンのエキスでも入っているんかいな」。
 すいせんと書けば「なんのこっちゃ」。

 そんな冷やかしが聞こえてきそうですが、実際は「まんじゅうの冷水浸し」なのです。

 主役は漉し餡(こしあん)が詰まった一口大よりやや大きめの葛まんじゅうです。

 それを大きめの杯に入れて冷水に浸し、冷たくなったところを口にするわけです。

 ひんやり、つるり。ほのかな甘さが口内に広がって得も言われぬ趣があります。

 町の菓子屋さんに「水仙まんじゅう」などと書いた品書きが張り出されたり、看板がお目見えすると、「夏の到来」を実感します。

 地下水が豊富な土地柄が生んだ知恵なのでしょうが、うまい食べ方を考え出したものです。

 20年ほど前までは、菓子屋さんばかりでなく、うどん屋さんの店先にも木の盥(たらい)などにまんじゅうを並べ、掘り抜き井戸の冷水を流していたものです。

 まず、冷たいまんじゅうで渇きを癒し、ひと息入れた後に、今度は熱いうどんをすする。これも一興だったのでしょう。

 最近はだんだん様変わりして、お持ち帰りのパック入りが主流になりました。「冷蔵庫で冷やして、お召し上がり下さい」というわけです。

 「地下水を大事に」という意識の高まりもあるのでしょうが、店先の床机に腰掛けて…という、悠長さが失われてきたことが大きな原因でしょう。

 小浜市などには、いまだに昔風に「店頭の水洗」を続けている店があります。夏の風情を感じます。

 書き方は水洗からすいせん、水仙と変わり、冷水浸しから冷蔵庫に変わっても、つるり、ひんやりの食感は伝統の味として保たれています。嬉しいことです。

 同じよう食べ方は他の地域にもあるかも知れませんが、当地では冬場の「水ようかん」と並んで立派な風物詩になっています。
 
 今日も猛暑。おやつは「すいせん・まんじゅう」といきましょうか。