◆ニシンのすしと水ようかん

 「ニシンのすし、漬けたかや」。「もうそろそろ食べられるやろ」。

 天気予報に雪だるまが登場するようになると、福井県敦賀市の周辺で決まって聞かれる主婦たちの会話です。

 味自慢の「ニシンのすし」が家庭の食卓に並べられるのも、そろそろです。あるいは早々と味見をした家庭があるかも知れません。

 身欠きニシンを水に浸けて柔らかくし、数日間天日干ししたダイコンを一口、あるいは二口大に切り、彩りのニンジンを添えて、こうじと一緒に漬けるものです。

 2週間ほどで食べごろになります。なれずしの一種と考えてよさそうです。

 敦賀市と身欠きニシンの縁は北前船によってもたらされました。昔は港の赤煉瓦倉庫に小樽港などから運ばれてきた身欠きニシンがどっさり保管されていたそうです。

 そんなことから身近な食べ物として扱われ、ニシンのすしも雪に埋もれる冬場の保存食に考え出されたのだと思います。

 師走になると、スパーなどの店頭にはダイコンとともに、5kg入り、10kg入りの身欠きニシンがどっと出回り、主婦たちが先を争うように買い求めていきます。

 そんな光景に「今年も終わりに近づいたな」と感じるのです。

 樽から出したニシンは、そのまま食べるのもよし、また軽く焼いて食べるのもよし、ですが、私はそのまま食べるのが好きです。

 各家庭、それぞれに味があり、それぞれに食べ方があります。

 北前船が残してくれた冬の味覚は、何代にもわたって伝承され、年末年始の食卓を潤します。

 ニシンのすしは、次代へと受け継がれ、また受け継がれているうちに、りっぱなお節の一品として不動に地位を確保したのです。

 「我が家のニシンを味わって」。年始客が酒の肴にする日もすぐそこまでやって来ました。

 この時期にもてはやされるものにもう一品あります。それは水ようかんです。

 水ようかんといえば、ひんやりした食感で夏の味覚というのが常識です。しかし、敦賀といわず、福井県内では冬の味覚なのです。

 戸外は雪がしんしん。温かい部屋で冷たい水ようかん。当地では「これが常識」。

 暖房でカラカラに渇いたのどに冷たい水ようかんは実に爽やかです。

 いつのころから冬の味覚になったのか。不勉強な私には詳しいことはわかりませんが、かなり古くからそうであったと聞きます。

 町の菓子店にも「水ようかん」の張り紙が目に付きます。

 厳しかった今年の商戦で勝ち組だったのは「家族団らん」をキーワードにした商品だったと言われます。

 家族の孤立化から家族の団らんへ。徐々にながら意識のシフトが見られてきているそうで、今年のクリスマスは「団らん」組が断然多かったと聞いています。

 若い人はやはりケーキ党ですが、この冬は「こたつを囲んで水ようかん」の一家団だんらんの光景が見られるかも知れません。

 地域に根を下ろした食文化。貴重な財産をこれからも大切にしたいものです。