中編1(市立敦賀病院編A)


5月9日
・レントゲン撮影など
・人工呼吸器を設置
・抗生剤の投与
 [状況]救急車で運ばれた自分を迎えてくれたのは内科の小林元夫医師。「わざわざこられたので精一杯やります」と心強い言葉をかけてくれた。すぐにX線撮影などに入り、夕方、集中治療室に落ち着いた。
 病状説明書によると、小林医師の診断も急性腎不全、横紋筋融解症、肺炎、肺出血だった。

 腎臓の機能が急激に低下して、尿が出ない状態にある。横紋筋融解症によって筋肉が破壊され、そこから出る物質(ミオグロビー)によって腎臓の機能が悪化するためだが、それ以外にも血圧の低下などが考えられるとのこと。
 尿の出が悪く、薬剤の効果も少ないようなので、血液透析が必要との判断。体内から血液をとり出し、機能を浄化する治療。これは心臓にかかる負担が多く、血圧が低い患者の場合は危険を伴うという。 

5月10日
・血液透析開始
 [状況]夜半から朝にかけて苦しむ。人工呼吸器がキッコン、キッコンと異常音を発し続けた。何かの危険信号らしく、妻は気になってほとんど寝なかった。
 体内の血を出し入れする血液透析が始まった。昨日、小林医師から「血圧が低めなので、透析は時間をかけてゆっくり行うが、万一の場合もあるので覚悟してほしい」との説明があり、血圧が下がったら、昇圧薬を投与するという慎重な作業が5時間ほど続けられた。
 夕刻、小林医師は「透析をしても筋力の破壊がおさまらず、重症に違いない」と状況説明。
 義弟夫婦は最悪の場合の弔問客に備えて、我が家の掃除にかかる。

5月11日
・血液透析
・栄養剤を投与
・遺影を注文
[状況]4:00、血圧が91-55に。脈拍数も少ない。7:30、小林医師が「筋力の破壊のため、腎臓の具合が芳しくない。アブナイ状況だ」と報告。その後も血圧の低い状態が続く。
 昼すぎ、透析が始まった。息が荒くて苦しそう。水口主任技師らスタッフは昇圧薬を投与しながら17:00すぎまで作業を続けた。
 厳しい事態に妻は、お気に入りの写真店に遺影を注文。義兄も心配して駆けつけてくれる。
 きょうも尿はほとんど出なかった。夕刻になって血圧が106-64に。一時的ながらほっとする。 

5月12日
・血液透析
・栄養剤を点滴
 [状況]4:30、血圧が71-29に下がる。その後も同じような状態が続き、昇圧薬は最大の15に。熱も高い。小林医師は「透析しても状況は変わらず、むしろ悪い方へ向かっている」と悲観的だ。
 疲労が重なっていた妻はぎっくり腰に。母親の看病をしているNさんが湿布薬をくれた。親切に感謝。
 蛋白質不足などにより栄養状態が良くないというので栄養剤を点滴。また、看護師は1時間ごとに痰をとってくれる。
 右下腿部からルートをとった透析は18:30に終わる。今日も尿が出ない。体のむくみはさらにひどくなる。

5月13日
・血液透析
・血液製剤投与に同意
 [状況]3:00、血圧が86-46に。鼻血が多量に出る。妻を呼んだ小林医師は「貧血があるので輸血しながら透析する。リスクもあるので承諾してくれるように」と告げる。「医師の思うようにしてほしい」と血液製剤投与同意書にサイン。
 昨日、ギックリ腰になった妻がX線検査を受ける。妻の親友,Tさんがホームページの掲示板に病状を書いてくれた。
 昼すぎに始まった透析は18:00に終わった。大柄な水口主任は汗だくの奮闘ぶり。その間、本人は鎮静剤で眠ったまま。川端内科診療部長も様子を見に来てくれた。今日もまた尿は出なかった。
 透析中に体を動かさないようにと、両手首にベルトをはめ、それをベッドの柵に固定する方法が採られた。妻が了承した。

5月14日
・体のむくみひどい
 [状況]相変わらず血圧が低く、また鼻血が出て不安をあおる。尿の出ない日が続いて、体のむくみはますますひどくなる。体内に水分がたまるので、水ぶくれ状態になるのだが、顔はアンパンマンのように膨れ、手はグローブのように大きくなってしまった。
 尿は出口の先に取り付けた管を通して計量器に。その後ベッド下のビニール袋にたまる仕組み。看護師たちは管をたぐったりして尿の出具合を観察するが、まったくその気配がない。
 昨日、長時間の透析をしたので休み。血液検査の結果を見て明日の方針を決めるという。鼻血が多いのは透析の影響によるもので、誰にでもある現象という。

5月15日
 [状況]血圧が安定し、透析もないので、本人は穏やかに眠っていた。しずくほどの尿が出たが、気休めにもならない。妻の友人のTさんや義兄が見舞ってくれる。

5月16日
・人工呼吸器のパイプ取り替え
・血液透析
 [状況]口にくわえている人工呼吸器のパイプを交換する。パイプを入れたままにしておくと雑菌などが付着するので、定期的に取り替えることになっている。しかし、このパイプを2週間もすると、のどに悪影響があるというので、場合によっては、気管切開してそこにパイプを埋め込むことも考えられるという。
 16:00から21:00すぎまで透析。腎臓の働きを補うために血液を体内から取り出し、薬液で浄化して再び体内に戻す治療で、この作業で3gほど除水ができた。水口主任から「元の顔はどんな顔だったの」といわれるほど膨れあがっていた。
 一時は咳き込んで苦しそうだったが、鎮静剤効果で眠り続けている。

5月17日
・CTスキャン
 [状況]妻は心配のあまり眠れなかったという。午前中の血圧は72-33とやや低めだったが、午後からは安定した。看護師たちは体を拭いてくれたり、髭を剃ってくれたりと面倒を見てくれる。 痰とりは看護師によって技量に差があるようで、昏睡状態ながらもがき苦しむことがある。今日の担当者は丁寧にとってくれた。CTスキャンを撮る。

5月18日 
・血液透析で輸血。
 [状況]小林医師が昨日のCTスキャン結果を知らせてくれる。肺に水がたまっているが、これは栄養状態が良くなれば、なくなるという。13:30、透析開始。貧血があるため輸血。5時間かかったが、この間、女性のM技師が頑張ってくれた。

5月19日
・入院届け
 [状況]今日は岸田研修医が診察してくれた。角田看護師長が「近々、個室へ移る」というので、妻は入院届けや病衣(寝間着)借用の書類を提出。熱が高く、尿も出ない。昏睡状態が続く。
 小林医師は鼻から管を通して胃に流動食を入れることを考えているが、細かいことは明日の血液検査結果を見て判断するという。
 ところで、横紋筋融解症のことだが、聞くところによると腎臓をはじめ、その他の臓器にも悪影響を及ぼし、8人に1人は死ぬらしい。なぜ、自分がこんな病気を併発したのか、いまのところ原因はわからない。

5月20日
・個室へ移る
・血液透析
 [状況]本館の個室606号へ移った。狭い部屋に人工呼吸器や透析などの機材が入ったので、作業をする人は大変だ。19:00まで5時間かけて透析。担当は水口主任。
 小林医師は「透析を2週間続けても尿が出ないと慢性腎不全ということになるので、将来もずっと透析が必要になる」という。医師と妻のそんなやりとりも昏睡状態の本人は何も知らない。
 今日まで集中治療室の長椅子などで夜を明かしていた妻が夜は自宅で寝ることになった。医療器具を置いた個室は狭いので、横になる場所がないのだ。

5月21日
・X線検査 
 [状況]血圧は薬の効果で安定している。小林医師は昨夜、金沢医大のかつての上司から同じ症状の患者が透析を続けて3ヶ月後に尿が出た例を聞いたので、これからも血液透析を続ける方針だと話してくれた。
 今日は尿が8cc、10ccと出て、尿のパイプを凝視する妻や看護師を喜ばせる。 

5月22-23日
・血液透析
 [状況]22日は尿の出20cc弱。比較的平穏。23日の透析は水口主任とM技師の2人がかり。2gの水を抜いた。水口主任は「慢性腎不全になっても、全国には20万人近くの人が透析を続けながら働き、日常生活している」と慰めてくれた。
 妻は「どんな姿でも良いから、趣味だったパソコンの前にもう1度座らせてあげたい。お願いします」と懇願。
 小林医師から人工呼吸の数値を低く設定すると苦しむので、気管を切開する旨の説明があり、妻が了承した。

5月24日
・友、遠方より
・抗菌剤投与
 [状況]このところ透析の度に体内にたまった水を取り除いてくれるので、パンパンに腫れていた足の甲に少しだけしわが見られるようになった。また、血液を出し入れする透析用のルートをこれまで右下腿部にとっていたが、次回から左下腿部に代わる。午前中に尿が50cc出た。
 兵庫県加古川市の友、Uさんが遠路、見舞いに来てくれた。しかし、顔は膨れ、口に人工呼吸器のパイプをくわえ、まぶたには濡れ脱脂綿といった哀れな姿を見せるのは忍びないというので、接見なしで引き上げてもらう。
 
5月25日
・血液透析
 [状況]12:00から始まった透析は3時間で終わった。H技師と水口主任が担当した。妻は親しいディラーに私有車の廃車を相談。

5月26日
・X線撮影
 [状況]降血剤効果で血圧は安定している。点滴での栄養補給だけでは不十分なので、鼻から胃へ管を通し流動食を入れることになった。慣らし運転で湯を流し込んだ。この日も抗菌剤を投与。尿の出が悪い。
  
5月27日
・血液透析
 [状況]昨夜、湯を入れたためか、またむくみがひどくなった。透析で3gを除水。午後の血圧が140-90台になって、昇圧剤のレベルを10に下げた。依然として尿の出が悪い。
 角田看護師長は妻に「悔いのないように世話をしてあげて」という。芳しくない状況が続いていると言うことだろう。妻は「奇跡でも起こってくれたら」と願う。

5月28日
・心電図に乱れ
・流動食開始
 [状況]2時間かかって透析機を洗浄。抗菌剤投与など。初の流動食。1時間30分かけてゆっくり流し込んだ。流動食はこれから日に3回続くことになる。これまで安定していた心電図に乱れが出た。

5月29日
・不整脈
・左足に点滴ルート
 [状況]心電図にときどき大きな下ぶれがある。夕方になっても不整脈はおさまらない。小林医師は「この程度の不整脈は、血圧が下がらない限り、想定の範囲内のもの。少し心臓に負担がかかっているのは確かだ」という。心配の種がまた増えた。
 これまで首から投与していた点滴のルートが左足に代わった。今日は咳き込みが多く、その度に痰とりをお願いする。

5月30日
・血液透析
 [状況]気管切開に備えての予備検査があった。14:00から始まった透析は19:00までかかった。1200iの流動食。尿の出はまだ少ない。

5月31日
・気管切開手術
 [状況]不整脈が出て心電図が波打っている。「範囲内」と聞かされても不安が募る。咳き込みもひどい。人工呼吸器のパイプをはめ込むための気管切開手術が行われた。あまりの痛々しさに妻は涙が出て止まらなかった。
 妻は緑内障の視野検査のため国立病院へ。夜、知り合いの通夜に出かけるなど激動の1日だった。

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