●「甘いもの」与えないで!


 
マリ遺跡からパルミラ遺跡、そしてダマスカスへ。延々と続くシリアの砂漠地帯で、そこに暮らす子供たちに接する心持ちを学んだ話です。

 ドライブしていて「絵になる風景」に出会うと、現地ガイドや添乗員が写真タイムをとってくれます。
 
どこまでも真っ直ぐな1本道。その端っこにバスをとめると、あっという間に子供たちが集まってきて物乞いします。
 5、6歳から13、4歳。年長者は「たばこ」をねだり、その他の子は「何でも良いから」といった調子です。後れをとって岩砂漠の斜面を駆け下りてくる姿もあります。

 みんな裸足、粗末な衣服ですが、瞳はきらきら輝き、屈託のない笑顔です。
 ついほだされて「キャンディーでもあげようか」という気持ちになった、その時です。「やめてください」。添乗員の大きな声がしました。
 「この子たちは生まれてこの方、甘いものを口にしたことがないはずです。キャンディーを食べたら美味いと思うに違いありません」。
 一呼吸おいて「そうしたらどうなりますか。また食べてみたいと思うようになります」。添乗員の諭すような話が続きます。

 「欲望が高じてかっぱらいに走る子が出るかもしれません。また虫歯になる子がいるかもしれません。ここはご覧のとおりの砂漠です。医者はいません。そうなれば砂漠の民として生きて行けなくなることっだてあるのです」。
 「安易な同情や親切は禁物」というわけです。「与えないという親切もあるです」。一行の誰よりも若い添乗員。真剣な話しぶりに胸を打たれました。

 その後も子供たちにまとわりつかれる同じような光景が何度かありましたが、添乗員の優しい思いを肝に銘じて「心を鬼」にしました。
 しかし、いまはまだ観光客が少ない土地ですが、遺跡の多い国ですから遠からずしてこの1本道にも観光客が増えてくるのは確実です。
 今回のように注意をしてくれる慈愛に満ちた添乗員や現地ガイドばかりではないと思います。

 「この子らの生活ぶりも変わるのだろうな」。車窓に流れるベドウィンのテントや岩砂漠に建つ粗末な家を複雑な思いで眺めていたら、真っ赤な夕日が砂丘に沈んでいきました。
 柄にもなく感傷的になった秋の日の終幕でした。

     
            (1999年10月のことでした)