●通貨もないし切手もない

 スペインとフランスの国境、ピレネー山脈に抱かれたアンドラ公国。通貨も、切手もない国の話しです。

 アンドラ公国?。「そんな国、知らない」という人が多いのではないでしょうか。面積はわずか468平方キロですから、日本の種子島とほぼ同じ。人口も6万5000人。大方の人は「アンドラ」と聞いてもスペインかフランスの小都市の一つ、と思ってしまいそうですが、れっきとした独立国なのです。
 歴代のフランス大統領とスペイン国内のウルヘル司教区司教が共同統治しています。

 超ミニとはいえ、独立国ですから国会議事堂があります。石造りの小さな建物ですが、中には議事室、裁判所、刑務所、厨房などがあります。
 しかし、この国には無いものの方が多いのです。まず通貨です。国民はスペインのペセタかフランスのフランの、どちらかを使います。

 次は切手です。町を歩いていると四角と丸いポストが並んで立っています。どちらも黄色ですが、四角い方はフランスのポスト、丸い方はスペインのポストです。
 フランスの切手を貼った手紙は四角いポストへ、スペインの切手の場合は丸いポストへ投函すると、ちゃんと配達される仕組み。国内は無料です。

 この国には関税もありません。首都・アンドララベリャの商店街に並ぶ電化製品、日用品、酒・タバコ、ブランド衣料などの各店は、国境を越えてやってくる買い物客で大繁盛です。「ヨーロッパのスーパーマーケット」と形容されるほどです。
 もともとは牧畜、葉タバコの生産などが盛んだったようですが、広くない面積では限界があります。1950年ころからは、買い物客などによる観光収入が伸びているそうです。

 この国には当然のように軍隊もありません。刑務所にはときどき麻薬所持や使用で検挙され世話になる人がいるとのことです。

 かつては税金のない国でしたが「最近は教区によって人民税(地方税)を取るところも出てきて、世知辛くなりました」とのこと。カトリック信徒の国で、国内を7つの教区に分けているのです。
 それでもいまだに税金なし、の教区が多いそうですから羨ましいことです。「その代わりガソリン代が高いのよ。ヨーロッパの他の国よりは安いようですが、それで国家財政をまかなっているのですよ」。これも現地ガイドの話でした。

 「ナイナイづくし」のような国ですが、あるものもあります。ロマネスク様式の教会があちこちに。石造りの厳つい教会が町はずれ、いや国はずれにもいくつも建っていました。

 学校は公用語のカタルニャ語、フランス語、スペイン語の3種があります。ガイドさんの子供さんはフランス語学校へ通学しているそうです。
 ただ1人の日本人がいました。それが現地ガイドさん。熊本県出身の女性で、こちらで結婚して10年以上も住んでいます。
 最近は「まさか」と思うような地域で日本人に出会うことが増えてきました。それだけ、日本人が海外に進出しているわけですが、未知の国にただ一人、勇気には感心します。

 温泉もあり、大きな屋内プールがありました。また、山並みから白い湯煙が幾筋も立ち上っていて、療養などに使われているそうです。

 いま、この国が力を入れているのは「石の町づくり」だとか。こぢんまりした家並みには古い石造りの家が目立ちます。
 ロマネスクの教会同様に厳ついのですが、重厚な頑固さを感じます。その壁に張り付くようにバラの花が咲いたりしていると、何とも言えない趣があります。「新築の家も石で造ろう」と、政府が補助金を出しているそうです。

 さて、最後に国境検問所の話しです。入国はフリーパス同然でした。しかし、出国の時はやや厳しくなります。
 酒やタバコ、電化製品、ブランド品などを大量に買い付けて自国に運び、商売をする人たちがいるそうで、それを監視しているのです。関税のない国ですが、近隣諸国からの圧力があるのでしょう。

 スペイン側の税関も厳しいようです。先着していた大型バスは、かなりやられていました。私たち一行もスーツケース1個だけ開けて、中身を調べられました。すぐに「すみませんでした」と入国させてくれましたが…。

 実のところ、アンドラ公国のことは旅行会社のパンフレットで初めて知りました。訪れるとわかってから詳しく調べたわけですが、おもしろい国があるものです。
 余談ですが、私たちが泊まったクラウンプラザというホテルは、国際人気歌手のフリオ・イグレシアスがオーナー。あるホテルチェーンと提携し、経営は任せているようです。ホテル建設の功績によって、彼はアンドラ公国の国籍を贈られたそうです。

             (2000年5月のことでした)