●珍妙な厚底靴にクスクス


 ドイツはフランクフルト空港。日本女性の厚底靴集団にあちこちから冷ややかな視線が注がれた話です。

 リビアのトリポリ空港から関西空港便への乗り継ぎのため、フランクフルトで長時間待たされました。仲間の大半は添乗員に引率されフランクフルト市内へと出かけましたが、風邪気味の私は居残りです。
 ドイツ語がからきしダメな私は、仕方なしに通路の傍らにあるベンチで行き交う人々を定点観測することにしました。

 さすがに大空港。目の前を様々な人種が通り過ぎてゆきます。家族旅行らしい親子連れがのんびり歩いていたかと思うと、離陸時間が迫っているのか大股で急ぐビジネスマンらしい男性もいます。
 途切れることなく流れていく人を眺めるのは、けっこう楽しいものです。あれこれと勝手な想像しながら、ふと右に視線を向けると、前方に日本の女性らしい一団が見えました。

 リビアに滞在中、他の日本人にはまったく会いませんでしたので、懐かしさみたいな感情もあります。その一団が接近してきました。卒業旅行でしょうか、若い女性ばかり40人ほどの団体でした。しかし、重い足取りが気になります。
 足元を見てその謎が解けました。ほとんどが例の厚底靴なのです。膝まである長いブーツもあれば、足首の上までの短ブーツやサンダル式のものまで形は様々ですが、12、3cmもありそうな厚底を引きずっている女性もいます。

 ざっと眺めたところでは30人は厚底靴を履いていました。軽快な平底靴は2人しか見つけられませんでした。
  今冬、大流行の靴です。田舎町でも時々は見かけました。「けったいなものが流行るものだ」程度の感想で眺めていたものですが、目の前を通るのは大集団です。

 細い体に窮屈そうなオーバーコートを着て、花魁(おいらん)のカッポレのような足もと。お尻がはみ出しそうな超ミニのスカートと長ブーツ姿。
 こんなのが空港内をぞろぞろと進んで行きます。どたどた。どたどた。なんとも重そうで、気だるそうな足取りです。
  例えはよくありませんが、強制労働をさせられて疲れ果てた捕虜や囚人が看守に引かれて行く様を思い起こさせる、何とも哀れな情景です。

 この珍妙な集団が人目を引かないはずはありません。すれ違いざまに、あるいは立ち止まって足もとに視線を注ぎます。その反応を見るのが、また愉快でした。
 中年男性は首を傾げて驚いた表情を見せ、同年代の女性はクスクス笑って通り過ぎます。どの目も一瞬は「びっくり」を表し、次にそれぞれの反応を示します。

 リビアへ出発の際にも関西空港で、卒業旅行らしい団体をいくつも見ました。数は目の前の団体ほど多くはありませんが、やはり厚底靴が目立ち「大流行」のほどを思い知らされました。
 「旅は履き慣れた靴で」が当たり前に思っている私には、危なっかしく思われて仕方ありませんでした。行き先はヨーロッパ方面が多いようです。石畳の道で捻挫をしないだろうか、お城などの階段を上るときはどうするのだろう、いらぬ心配をしたものです。

 一行はこれからイタリアのミラノへ乗り継ぐとのことでした。ファッションの町、ミラノへ乗り込むのです。女性たちには「流行の最先端」でとの思いもあったのかも知れません。それにしても「全員、右へならえ」の厚底靴集団は、華麗なファッションを創造するミラノっこに、どのように受け入れられたのでしょうか。
 
 珍妙な日本人集団に冷ややかなクスクスを投じた人たちは、厚底靴をファッションと見るよりも「背を高く見せるための工夫」と見ていたのではないか、そんな風に思える光景でした。 
 わずかな時間の観察です。誤解があるかも知れません。しかし、珍妙な光景に映ったことだけは確かです。女性たちは旅先で平底の靴に履き替えるのかも知れません。それなら大いに結構です。何ごともなく帰国できることを祈るばかりでした。
            
             (2000年2月のことでした)