●遠くへ避難デナリの動物

 アメリカは動植物の宝庫、アラスカ。期待はずれに終わったデナリ国立公園での動物観察の話です。

  デナリ公園は手近に野生動物を見ることが出来る自然公園として、観光客に人気のスポットです。一般的なツアーなら必ずといっていいくらい組み入れられているコースです。
 「ワイルドライフツアー」と名付けられた約6時間の動物探し。バスはアラスカ鉄道「デナリパーク駅」近くにあるホテル「デナリ・ナショナルパーク」前を起点にしています。

 動物探し、とはいってもごく普通の中型バスです。ドライバイーは中年の女性でした。
 バスはまず10kmのパークロードを進みます。運転席から「動物探しにご協力下さい。もし見つけたらストップと叫んでください」とのメッセージが流れました。

 タイガと呼ばれる森林樹林帯からツンドラ地帯へと高度を上げます。やがて森林限界線に達し、徐々に山が迫ってきました、。
 舗装されたパークロードはタイガとツンドラ地帯の中間で終わり、ここから先は未舗装の狭い山間道を辿ります。
 「これから先は動物が出てきます」。ドライバーの弾んだ声が響きました。

 前方で対向バスがストップしています。雷鳥の一家4羽が道路を横断中でした。最初に出会った動物はアラスカの州鳥でした。
 後部座席の乗客が丘の上にいる雄のムースを、さらに草原で草をはむカリブー(トナカイ)2頭を見つけました。しかし、遙か前方。遠すぎます。

 その後もときどき「ストップ」の声がかかりました。北極地リス2匹だったり、カリブーだったりしますが、200ミリの望遠レンズではとても話になりません。それほど距離があります。
 車内がにわかに騒々しくなったと思ったら、丘の上の窪地にハイイログマ(グリズリー)が横たわっていました。これも500mはたっぷりありそうで、豆粒のようでした。さらにグリズリーを1度見かけましたが、同じような豆粒状態は変わりません。

 折り返し地点近くの河原にカリブー2頭がコケモモを夢中で食べていました。これは至近距離から見ることが出来ました。

 帰路も同じような観察状況です。ただ1度だけ乗客が興奮する場面がありました。遠くではありましたが、グリズリーが活発に動き回っていました。
 速射砲のようにシャッター音が放たれます。頃合いを見計らってバスが動き出すと「ノー、ノー」のブーイング。それを数度繰り返して、ようやく騒ぎはおさまりました。

 正直なところ、動物たちをもう少し近くで見られるのでは、と期待していました。というのも、カナダ西部のビーバー街道では50mほど先にグリズリーがいたり、道路ぎわにエルクが群れていたりしたので、そのような状況を想像していました。
 デナリの場合、公園内とはいってもひっきりなしに動物観察のバスが行き交っています。これでは、動物たちも遠くに避難せざるを得ないでしょう。

 期待はずれで、ややがっかりでしたが、動物たちの立場からすれば身を守るための当たり前のライフスタイルなのです。「ワールドライフを手近に」という私の方が心得違いをしていたわけです。

 不満を言うのはむしろ動物たちの方でしょう。「広大な公園に住みながら、こんな山の上まで追いやられたのは人間たちのためだ」と。きっと「早く帰れ」のブーイングをしているのかも知れません。

 ともあれ、遠くではありながら、これだけの動物を目撃できたのです。アラスカにはまだ豊かな自然がある、という証でもあります。
 かけがいのない地球の財産として大切にしたいものです。
     
              (1999年7月のことでした)