●明るいザグレブの子たち


 クロアチアはマイナスイオンあふれるプリトビッエ国立公園。首都ザグレブからやってきた遠足の子供たちとのささやかな交流の話です。

 プリトビッエ国立公園は16の湖と98の滝が織りなす世界遺産です。公園内には3両編成のシャトルバスが走っており、散策の人々は4つある停留所のどこででも乗り降りできます。大きな湖では電気ボートが足になってくれます。
 私たち一行7人は第1停留所付近の入り口から散策を開始しました。リカ(オオカミの多いところ)と呼ぶ展望台を少し下って最初の湖に出ました。

 湖畔の緑を映したダークグリーンの湖面。その脇を進むと、すぐそばに様々な姿の瀑布が連続していました。湖畔の道は木道に変わり、くねくねと続いています。
 目を見張るような大きな滝は数本ですが、とにかく数が多いのです。木々の姿を写す湖面はさざ波一つない静寂。鏡のようです。耳に達するのは滝の音だけ。「静と動」。まさしく別天地です。
 自然のすばらしさに感動して、午前の散策が終わりました。

 午後も公園散策です。私たちが待つ第2停留所に到着したバスは子供たちで超満員。
 行き先を確かめないまま乗り込むと、車内から一斉に拍手が起こりました。大歓迎してくれたのですが、思いも掛けないことで、なんとも面はゆい気持ちでした。

 この車両には子供たちだけしか乗っていません。すぐ立ち上がって座席を勧めてくれる子、補助席を出して「どうぞ」と言ってくれる子。みんなにこやかです。
 話をするうちに、 ザグレブから遠足にきた小学生とわかりました。9−12、3歳でしょうか。そのうちに私たちにカメラを向けてくる子もいます。写生を見せてくれる子がいたり、照れくさそうに話しかけてくる子も現れました。

 異邦人と親しそうにする子供たちを、先生がにこやかに見守っています。写真を撮ったり撮られたり。住所を聞いたり聞かれたりしているうちに、バスは停留所に着きました。終点だと思って降りると、子供たちは乗ったまま。「バイバイ」と手を振っています。

 そこは午前に降りた第1停留所だったので、あわてて車内に戻ると、再び大きな拍手です。その後も車内は大いに盛り上がり、第2停留所に引き返しました。子供たちは、ここで降りて昼食をとるとのこと。

 私たちは車内にとどまって第4停留所まで行くことにしました。楽しい時間があっという間に過ぎてお別れです。子供たちは一緒に写真に収まったり、手を合わせて東洋風のお辞儀をしたり。様々に別れを惜しんでくれています。

 「このあとザグレブにも行きますよ」と言うと、何度も何度も拍手が起こりました。明るく闊達な子供たちに見送られて第4停留所へ。そこから再び「静と動」の自然を満喫しました。
 子らとの交流はたったそれだけでしたが、あの笑顔はいつまでも忘れることができません。

 ザグレブのサッカーチームには三浦和良選手が所属(現在は退団)しており、私たち日本人に対して特別な親しみを持ってくれたのでしょうか。
 いまどきの日本で、もし遠足の集団の中にオジンやオバンが乗り込んだらどうでしょうか。きっとうさんくさく見られるか、あるいは露骨な拒絶反応を示されるか、そんなところでしょう。

 遠い中欧の国で接した、あの子たちの笑顔が「珠玉」のように思われて、懐かしさがこみ上げてくるのは、そのためなのかもしれません。
 

              (1999年5月のことでした)