●死者は語らず「沈黙の塔」

 拝火教といわれる「古典宗教」が信仰されるヤズド。風葬の場に立って感慨無量のひとときを過ごした話です。

 イランにイスラム教が普及するまではゾロアスター教が国教でした。本拠地だったヤズドにはいまも神殿があり、信者がいます。拝火教ともいわれ、善の火の神「アフラ・マズダ」を最高神として崇めています。

 その信者たちが長年続けてきた風習に、死者を自然に帰す「風葬(鳥葬)」があります。死者を埋葬したら土が汚される、火葬したら空気が汚れる、という教義に則って営まれた厳粛な葬送の儀式でした。
 イスラム教の普及によって1900年に禁止されましたが、信者の間では4、50年前まで密かに行われていたそうです。

 ヤズドの郊外に当時を偲ばせる風葬の場が「沈黙の塔」として残されています。正式には「ダフメイエ・ザルトシュティヤーン(ゾロアスター教の墓場)」。地元の人は「ダフメ」と呼んでいます。

 丘が2つあります。その上に男性用と女性用の塔が見えます。麓にはドーム型の葬儀場が6、7棟並んでいて、その一つでは葬儀が行われていました。
 坂道を20分ばかり上り、女子用の塔を見学しました。高い段差を這い上がって塔の中に入ると、大きな円形の窪みがありました。

 内臓を取り出した遺体を窪みのそばに横たえると、ハゲタカなどの鳥たちが集まって数日のうちに骨だけにしてしまうそうです。
 夕日が日干し煉瓦の塔を照らしています。強い日差しにの中でしたが、しばしの間その場に立ちすくんでしまいました。

 青空を見上げていると、今にも眼光鋭いハゲタカが舞い降りてくるような幻想にとらわれました。

 丘の裾野には新興住宅が並び、アパートも棟を連ねて開発ラッシュのまっただ中を思わせました。
 隣の男性用の塔を眺めると、3人乗りのオートバイが丘の道をバリバリと上り下りして遊んでいました。バイクに2人乗りしたアベックもやって来ました。いまや親の目を盗む逢い引きの場所でもあるようです。

 「沈黙の塔」は周囲を住宅に囲まれ、オートバイの騒音にかき回され、いつの日にか「雑音に取り囲まれた塔」になってしまうのではないか。
 黄金色に照り返された塔を見上げていたら、そんな思いがよぎりました。

        (2001年4月のことでした)