●アッラーの神もお許しか!?

 エジプト・ルクソールはナイル西岸のネクロポリス「死者の都」。袖の下を使って特別公開の墓を見学した話です。

 その日は王家の谷、王妃の谷、貴族の墓などを見学の予定でしたが、特別公開されているネフェルタリの墓もぜひ見てみたい、と考えていました。一行の全員が同じ思いでした。
 ラムセス2世の正室、ネフェルタリの墓は改修されたばかり。1日に150人限定で公開されていました。後れをとっては入場できません。私たちはチケット売り場へと急ぎました。

 観光用フェリー桟橋近くの売り場には10人ばかりの先客がありましたが、窓口はクローズされたまま。「???」。現地ガイドが状況掌握に走りました。
 そしてわかったことは「先ほどまで開けていたのだが、係員が自宅に帰ってしまった」ということでした。

 窓口では王家の谷、王妃の谷などのチケットを発売しているのですが「今日は朝から忙しい。これ以上やっていられない」と、機嫌を損ねて職場放棄してしまったらしいのです。何ともいやはやです。

 「それでは別の売り場へ」と促され、バスに乗って750メートル上流にある一般フェリー桟橋の売り場へと走りました。
 ところがそこではネフェルタリの墓の入場券は扱っていないというのです。ガイドと添乗員が相談し、先ほどの売り場へ引き返して策を練ることになりました。

 ガイドは「少し金がかかるけど、政府の高官に掛け合ってみる」と提案して裏口の方へ姿を消しました。
 5分ばかり後に戻ったガイドはスーツ姿の男を伴っており「この人は政府の高官です」と紹介しました。2人は添乗員とひそひそ話し合い「みなさん40ドル出してください」と言います。

 徴収したお金を高官とやらに渡すと一発OK。私たちは王家の谷などのチケットも同時に入手できて先を急ぎました。その後の話では、私たちが去った直後に窓口は再びオープンしたそうです。これも「???」です。

 王家の谷や王妃の谷への入場料はツアー料金に含まれていたのですが、ネフェルタリの墓はオプションです。入場料は30ドルと聞いていましたので、1人につき10ドルが高官とやらへのリベートだったのでしょうか。

 ツタンカーメン、セティ1世などの墓を見学して、ネフェルタリの墓へ行くと「どこやらの高官が見学中なので、しばらく待て」といわれ、1時間余り後にやっと入ることができました。
 鮮やかな壁画は年代を忘れさせ、古代を今によみがえらせておりました。「すばらしい」の一言に尽きるものでした。

 この日の観光はナイル東岸にあるルクソール博物館の見学を最後に、夕方には終了の予定でした。
 しかし、チケット売り場とネフェルタリの墓の見学待ちで2時間以上もロスしてしまい、博物館の近くに来たときには、ナイル西岸に太陽が沈みかけていました。

 博物館まで100mどに迫ったときです。ガイドが「バスを降りろ」といいます。またまた「???」。添乗員とガイド、ドライバーの間に険悪な空気が漂っています。
 どうやら「約束の時間が過ぎたので、ここでお終い」といい張っているらしいのです。またまた職場放棄に遭遇です。タイムオーバーを理由に放り出された私たちは博物館を見学した後、タクシーでホテルに戻りました。

 白昼堂々の袖の下や職場放棄、日本ではとうてい考えられないことですが、ここは悠久の地。何事も神の思し召しのままにです。お国柄と思えば致し方のないことかもしれません。

 お墓の見学中にこんなこともありました。狭い墓の中、管理人は切れ目なしに訪れる観光客をさばくのに大変です。少しでものんびり観光している人があれば「早く交代しろ」と急かせます。

 一行の中に墓に入る度にそこの管理人と親しそうに握手する人がいました。見学を終えて戸外へ出てくるのはきまって最後でした。
 握手する手の中には小銭を忍ばせていたのです。これが少しばかりゆっくり見学できる秘訣だったのです。要領のいい人がいるものです。

 こんなことが当たり前のように通用するのもやはりお国柄では…。バクシーシ。アッラーの神もお許しくださっていることなのでしょう。

         
         (1996年1月のことでした)