●春の夜に人形が燃えた!!

 スペインは陽光さんさんのバレンシア地方。春の大イベント、サン・ホセの火祭りの話です。

 スペインの春の3大イベントといえば、セビリアの春祭り、パンプローナの牛追い祭り、そしてバレンシアの火祭り、といわれます。その一つ、サン・ホセの火祭りを見ました。
 住民たちが1年がかりで制作した600とも700ともいわれる巨大人形を一夜にして燃やしてしまう炎の祭典です。

 祭りは3月中旬の1週間です。市内の各所に趣向をこらした人形が飾られます。ユーモアあり、風刺あり。各町内が秘やかに構想を練って仕上げた木と紙の人形です。
 住民たちは本番までの間、陽光を浴びながら人形見物を楽しみます。町のいたるところで、景気づけの爆竹が「バン、バン、シュッ、シュッ」とはじけています。

 火祭りはキリストの父、サン・ホセが大工の守護聖人であったことに端を発します。3月19日のサン・ホセの日に大工さんたちが古材や切れ端を燃やす習慣があり、いつのころからか木と紙の人形も燃やすようになった、と伝えられています。

 祭りにはコンテストが3つあります。まず、祭りの主役の人形、それに通りに飾られるイルミネーション、ミス・火祭り(ファジャー)です。人形の最優秀作品は中心部分だけですが、火祭り博物館に末永く展示さる栄誉に輝きます。凝ったデザインの電飾も祭りムードを盛り上げます。

 ミス・火祭りは大人と少女の部があります。ミスに選ばれるのはバレンシア女性の最大の誇りです。私は17年前のミスという女性の案内で祭りを見物しましたが、その権威に驚かされました。
 どこでもフリーパス。人々は旧ミスに従う私たちに道を譲り、席を譲ります。17年前のミスのことを市民の誰もが知っていて敬意を表してくれるのです。

 祭り本番。早朝から花火の連発、そして耳をつんざくような爆竹。やがて太鼓や笛の演奏と女性たちのパレードが始まりました。きらびやかな民族衣装を着た幼児や大人たちが各町内を練り歩きます。

 上空にはスペインに闘牛シーズン到来を告げる軽飛行機が、真っ青なキャンバスに大きな白文字を描いています。
 昼は人形を見たり、パレードを見物したり。名物のパエリアで腹ごしらえし、夕方は闘牛見物です。

 クライマックスの時が来ました。真っ先に火がつけられたのは子供用の小型の人形です。
 人形の回りには爆竹を吊した導線が張られ、古材などが積み上げられています。何重にも取り囲む観客が固唾をのんで見守ります。そこへミス・火祭り2人が登場しました。

 いよいよ点火。ガソリンをまいて火がつけられました。バチ、バチとはじける炎。同時に爆竹がババーン、ババーンとすさまじい破裂音を轟かせました。

 住民たちが精魂込めて仕上げた人形はあっという間に炎に包まれ、大歓声の中で1週間の生命を閉じました。この後、町内ごとに大きな人形は次々に炎と化していきました。

 しかし、一つの人形が燃え尽き、消防士が水をまいて完全に消火してから次の地点に移動してまた点火、という具合ですから大変です。翌日未明に点火、なんていうこともあるそうです。

 祭りが終わると、町ではすぐに来年に備えた人形作りの構想が始まります。春の夜を焦がす熱意のイベントは、かくして次の時代へと引き継がれていくわけです。

             (1997年3月のことでした)