●食は文化と言うけれど…

 先住民の子孫が多く住むメキシコはオアハカの町。黒っぽいソースの珍なる味を 賞味した話しです。

 夕食のメニューにメイン料理が「モーレとチキン」と書かれていました。「モーレとは何ぞや」。郷土料理の一種には違いなさそうですが、どんなものでしょうか。
 旅行の楽しみは、その地方、地方に連綿と受け継がれている伝承料理を賞味することもその一つです。

 いよいよメインディッシュの登場です。テーブルに運ばれたのは、チキンを包み込んでしまうほど、黒っぽいソースがどっさりかかった料理でした。
 「イカスミ?」。いやいや。それほど黒くはありませんが、それに近い色ではあります。正直なところ、美味そうには見えません。

 とにかくものは試し。ひと口舐めてみました。ほろ苦いような、渋いような、辛いような。どう表現して良いのか…。複雑な味が口内に広がりました。

 不思議そうな顔を察して、「これがモーレ・ソースです」。ガイドが説明を始めました。
 チョコレートとクルミ、各種唐辛子、タマネギ、アーモンドなどが材料で、目の前のソースには10種類ほどが含まれているそうです。

 出発前に成田空港で、旅行会社の年配社員から「メキシコにはチョコレートがかかったとんでもない料理があります」と聞かされていましたが、目の前のソースこそ、そのとんでもない料理だったのです。初めて口にする人には、なかなかなじめない味です。

 しかし、地元の人にとってモーレ・ソースはお祝い事には欠かせない大変なご馳走なのだそうです。
 本来は唐辛子も10種以上、チョコレートの他にトマト、ゴマ、シナモンなど計39種類もの材料でつくられる芸術的な料理ということです。 

 ソースは各家庭やレストランでそれぞれ秘伝の味が受け継がれ、チキンばかりではなく、ターキなどにも使われています。

 モーレは専門の有名レストランもあるほどで、まさに国民的な料理なのです。ツアー会社の社長が「ぜひに」と加えたメインディッシュだそうですが、肝心のソースを除けて肉だけを食べる様子に、ガイドは「慣れたら美味しいのですがね」と寂しそうでした。

          (2002年2月のことでした)