7年目のオタマジャクシ

 アメリカはアリゾナ州のモニュメントバレー。7年ぶりに出来た水たまりにオタマジャクシが泳いでいた話です。

 ジョン・フォード監督、ジョン・ウェン主演の西部劇映画「駅馬車」。往年の映画ファンならだれ1人知らないものはない傑作です。その舞台がここモニュメントバレーです。

 先住民インディアン、ナバホ族の青年が運転するトラックの荷台に乗って赤茶けた大地を進みます。
 荷台にはイスが備え付けてありますが、車体がバウンドするたびにお尻を打って痛いこと。サングラスをかけ、防塵のためにマスクをしています。

 コロラド高原に広がるモニュメントバレーは、赤茶色の大地に大きな岩が生えたように点在しています。その一つ一つにミント岩、大酋長の岩、熊とウサギなどの名前が付けられています。

 大岩は谷底から隆起しながら風化によって削られて、驚異的な自然美が創造されたといわれます。人気の名所なので、国内はもとより、ヨーロッパなどからも観光客を集めています。

 その人たちに混じって観光しながら奥へ奥へとトラックが突っ込んでゆきます。ところどころに水たまりがあります。数日前に大雨が降ったのだそうです。
 「あなた達は良いときに来ましたね。きょうは砂埃が少なくて大助かりですよ」。ナバホの青年は、うれしいことを言ってくれます。

 西部劇の主人公にでもなったような気分で辺りを眺めていると、ガイドが「私のとっておきの場所へ案内してあげます」と、これもうれしい話です。車を降りて、さらに奥へと進みます。

 辺りは棘のある雑草が密集し、スニーカーでも簡単に突き刺してしまう強靱さです。気をつけながら歩を進めると、大きな岩に壁画が描かれていました。
 小さな動物などで、絵も単純でしたが、ナバホ族の先祖が描いた貴重なものなのだそうです。

 少し離れた大きな岩の先端に楕円形の穴が空いていて、そこから真っ青な空が覗いていました。ナバホ族が「太陽の目」として大切にしている場所だそうです。
 ガイドは壁画と太陽の目を見せたくて案内してくれたのですが、私たちはこの場所から別の感動をちょうだいすることになりました。

 壁画のある大岩の前に直径10mばかりの水たまりがありました。ガイドの説明では、先日の大雨によるもので、この場所に水たまりが出来たのは7年ぶりのことだといいます。説明を聞きながら、何気なく水面を眺めたら無数のオタマジャクシが泳いでいました。

 すでに孵化してカエルの姿になりかかっているのもいます。灼熱の大地、それも7年間乾ききっていた大地です。3、4日前に大雨が降ったからといって、湧くように出現したオタマジャクシには驚きです。

 「どこからきたのだろう」。「まさか、地中で7年間もじっとしていたわけではなかろう」。「親カエルが7年間、冬眠状態を続けていたのだろうか」…。
 居合わせたみんなが勝手なことを言って、かしましいことです。本当のところ、このオタマジャクシはどうして出現したのでしょうか。誰にもわかりませんでした。

 いつかテレビで、ある木の実が火事によって堅い殻が弾けて、芽を出すのを見たことがあります。木の実は火事が発生するまで何年でも地上に転がって待ち続けているのです。

 その生命力の偉大さに心打たれたことがありますが、水たまりを泳ぐオタマジャクシもきっとどこかでこの日を待ちに待っていたのだと思います。
 そして、水が涸れる前に親カエルに成長して、子孫を残そうと必死になって頑張っているのでしょう。

 「これを生命の神秘といわずして…」。そんな気持ちでしばらく立ち去ることが出来ませんでした。

 ガイドの親切が思わぬ贈り物になりました。目にした驚異の光景は、忘れることのない感動として記憶に留まっています。

               
               (1997年9月のことでした)