●自慢の子グッバイボーイ

 ペルーは世界文化遺産の空中都市、マチュピチュ。急な坂道を駆け下って見送ってくれるグッバイボーイの話です。

 マチュピチュ観光を終えて麓まで戻るバスを先回りして見送ってくれる少年がいます。午後になると、駐車場付近では出番待ちする少年を見かけます。

 私が乗ったバスでも色彩鮮やかな貫頭衣を来た少年がカーブに立って「サヨーナラ〜〜〜」と手を振ってくれました。
 カーブを回る度に林の中から姿を現して「サヨーナラ〜〜〜」と甲高い声を震わせます。

 車がカーブしている間に、密林の斜面を一直線に下りて先回するのです。
 チップ稼ぎとわかっていますので、初めはややしらけた気分でしたが、何度か繰り返えされるうちに「サヨーナラ〜〜〜」を心待ちするようにりました。

 カーブを回って姿が見えないと「間に合わなかったのか」と心配です。ふと前方を見ると、バスの前を懸命に走っています。
 50mほど先行して「サヨーナラ〜〜〜」を叫んだ後、その場から林の中へと姿を消しました。少年の姿を確認できてほっと。ひたむきなグッバイ・ボーイ君のファンになったようです。

 バスがすべてのカーブを曲がり終え、終点近くにさしかかったころ、少年が乗り込んできました。はあはあと息を弾ませながらチップ集めの開始です。
 腰にはそのためのポッシェットをぶら下げています。1ソル硬貨、1ドル紙幣が次々に手渡され、写真を撮った場合は当然、金額も3、4倍に跳ね上がります。

 お金ばかりでなく、キャンデーやボールペンなどもプレゼントされ、ぺちゃんこだったポシェットがだんだん膨らんできました。
 チップ集めが一巡したところで、駐車場に到着。バスから降りた一行を例の「サヨーナラ〜〜〜」で見送ってくれました。運転席のドライバーも上機嫌の笑顔です。

 少年は12歳。グッバイボーイ仲間の最年長クラス。ややうつむき加減で、手の平を下に向けて横に振る独特のポーズ。そしてあの甲高い「サヨーナラ〜〜〜」。

 翌日のグッバイボーイは真っ赤な衣装に帯をしていました。配車係の女性の子供でした。先回りして「サヨーナラ〜〜〜」を繰り返えす少年は10歳。懸命に駆け下り、先導する姿が痛ましく思えます。

 この子もうつむき加減に手を横に振ります。昨日の少年と同じスタイルです。もの悲しげに声を震わす「サヨーナラ〜〜〜」も同じ。違いを探せばやや声が甲高いくらい。

 哀切というのではありませんが、耳に残る声です。林間に余韻を残す名調子。演出だとはわかっていても、謎だらけの遺構に触れた直後だけに胸にしみ入ります。
 お客の心情をくすぐる術(すべ)を叩き込む演出家がいるのかも知れません。

 稼ぎはこの目で確認したようになかなかのものです。グッバイボーイはドライバーや関係者の子供が多いと聞いて、ドライバーの笑顔や母親の自慢顔が納得できました。

 「サヨーナラ〜〜〜」。密林に消えたあの声は帰国後も耳について離れません。

           (2002年6月のことでした)