●集落の中に戦車や高射砲


 イスラエルと国境を接するシリアとレバノン。二つの国で目撃した厳しい現実です。

 シリアの首都ダマスカス市内を散歩していて、真っ先に目入ったのは「軍服」姿の若い男女です。カーキ色(枯れ草)の服に襟章をつけ、頑丈そうな黒革の靴を履いています。イスラム教国らしく女性はスカーフをかぶっていました。

 三々五々、笑顔で歩く様子に休暇中の兵士かと思いましたが、兵士にしては幼すぎます。ディバッグを背負った男の子、腕に本を抱えた女の子もいます。疑問はすぐに解けました。放課後をくつろぐ中、高校生たちだったのです。
  濃緑色の地に赤線、黒字に黄線、赤地に黄線などの襟章は学年やクラスを表すものでした。

 日本と同じ6、3、3、4年制ですが、中学生以上は週に1回の軍事教練があるとのことです。
 その後、国内のあちこちをバスで走り、何度か登下校中の生徒たちを見かけることがありましたが、町が変わっても「軍服風の制服」は変わりませんでした。

 もう一つ目についたのは軍事施設。砂漠の中を走っていて戦車や塹壕(ざんごう)を見かけることが再三ありました。その度にガイドや添乗員から「絶対にカメラを向けないでください」との注意があります。
 住宅地のはずれにも戦車が待機していることもあり、軍用機が旋回する光景も目撃しました。

 レバノンのバールベック神殿を見るために、シリアからバスで入国したときの話です。国境の検問所で長時間かかって出国手続きをし、レバノン山脈とアンチ・レバノン山脈の狭間を走ります。
 ここからレバノン側の検問所までは緩衝地帯とも中立地帯ともいわれるところ。 

 ざっと4、5キロはあっただろうと思います。中ほどに正式の国境があって、申し訳程度の有刺鉄線が張ってありました。
 これまで旅行した国で国境に緩衝地帯があるという話を聞いたことがありませんでした。驚きです。

 レバノンでの入国手続きは意外に簡単でした。
 神殿の建つベーカー高原をめざすバスの車窓に飛び込んできたのは、またまた軍事施設です。
 銃砲をのばした戦車が数台、その横には砲弾らしいものを積んだトラックなどが待機していました。

 さらに驚いたのは、集落のすぐ近くに銃口を青空に向けた高射砲が据えられていたことです。どこに狙いを定めているのでしょう。
 戦車も数台、四方に銃砲を向けていました。戦時体制そのままの光景です。

 日本で見かける自衛隊の基地は高い塀の中。その様子は伺い知ることはできませんが、こちらはむき出しです。
 一つ一つの施設の規模は小さいのですが、数が多いようです。

 両国の国境検問所では、銃を構えたたくさんの兵士が辺りに目を光らせていました。
 「カメラを持ってバスから降りないでください」。同じ注意を何度も受けました。

 パレスチナを国家として認め、イスラエルを認めないシリア。ゴラン高原を巡るイスラエルとの確執は簡単には解けそうもありません。
 「世界の火薬庫」といわれて久しい中東。厳しい現実をかいま見た思いでした。

   
         (1999年10月のことでした)