●大迷惑ですよ!新婚さん

 カナダはマリーン湖クルーズでのこと。同乗した日本人の新婚さんに大迷惑をした話です。

 マリーン湖はジャスパー国立公園内に数ある湖の中でも「ロッキーの宝石」と称されるほどの景勝地。
 神秘的な湖を遊覧船で巡るコースは、世界各国からやってくる観光客にとって最高の人気スポットです。
 
 私たちが乗り込んだ遊覧船は、湖のもっとも奥まったところにあるスピリット・アイランドをめざします。
 船客は私たちのグループと別の日本人ツアー客、それにアメリカ人が少数。総勢40人ほどで客室は満席状態です。

 遊覧船はエメラルドグリーンの湖面を滑るように進みます。湖畔の風景が刻々変化します。残雪の山々が連なり、どこを撮っても「絵になる風景」です。
 しかし、カメラを手にした人たちが集まるデッキは6、7人で身動きできなくなるほどのスペースしかありません。
 出たり入ったり。乗客たちは交代しながら「傑作をものに」と頑張っています。「デッキでは十分注意してください。危険ですから船縁に腰など掛けないでください」。船内放送が繰り返されます。 
 
 そんなとき、一組の日本人新婚さんがデッキに姿を現しました。そして男性がいきなり船縁に腰を下ろし、女性を膝の上に抱き上げました。あとはおきまりのべたべた、いちゃいちゃです。
 狭い場所です。写真撮影の人の体が触れたりもします。そうすると、「邪魔するな」といわんばかりに睨みつけます。

 2人は10分ほど、いちゃついて船室に戻りました。ところが、船縁がよほど気に入ったのか、その後も何度か出てきては同じいちゃいちゃを繰り返します。これ見よがしにとやっているのでしょうか。
 別のグループには他にも数組の新婚さんがいましたが、そのうちの何組かは船窓に流れる絶景など眼中になさそうです。デッキに出はしませんでしたが船室でべたべたのやり放題です。

 こちらはカビの生えそうな古色人間。この光景を同乗のアメリカ人がどう思っているのか、気が気ではありません。
 私たちはスピリット・アイランドのある最深部の桟橋でいったん下船、周辺を散策した後、再び同じコースを戻ります。
 
 復路はややスピードを上げ、船体も揺れを感じるようになりました。それでもあの新婚さんは「船縁のいちゃつき」を止めません。
 「危ないですよ」。見かねた1人が注意しましたが、全く無視です。けらけら笑いながら続行です。船客の多くは年配者。いらいらしている様子が伝わってきます。私もいらついています。

 楽しいはずの湖上遊覧が妙な雰囲気になってしまい残念でなりません。多くの人の思いも同じだったはずです。遊覧船が桟橋に戻ったときはほっとしました。

 未婚の添乗員が言っていたことがあります。「私、新婚さんが参加しているツアーに添乗するのが一番イヤです。だって、身勝手でこちらの言うことなどまったく聞いてくれないのですもの」と。
 船上で目撃したのは特別な事例なのかもしれませんが、あの新婚さんたちを見る限り、若い添乗員さんの嘆きがよくわかりました。    

 その日の夕食は、あの新婚さんらのことが話題でした。「いちゃつくなとは言わないわよ。時と場所をわきまえてほしいものよ、ね」。「あんなのと一緒でなくて良かったわね」。
 船上でのいらつきは残映となって、夜遅くまで漂っていました。

           
             (1997年7月のことでした)