●私の腕前を買って下さい

 
北アフリカはリビアの首都・トリポリ。道具袋を並べてお客を待つ出稼ぎ者と生き残りに懸命な青年たちの話です。
 
 朝9時。遺跡見学に向かうバスが大きなロータリーにさしかかりました。交通量が少しばかり多めの道路わきに、ノコギリや金づちとおぼしき道具が入った布袋などがずらりと並んでいます。
 そばの歩道や芝生の上には多くの人たちが人待ち顔でたむろしています。中には大きなハンマーを手にする若者もいます。
 
 雇い主を待つ日雇い労働者の集団か、とも思われますが、大阪市の西成区などで見かける光景とは違って、いたってのんびりした様子です。
 ガイドさんに尋ねると「あの人たちはエジプトやアルジェリアからやってきた出稼ぎの人たちです」と教えてくれました。仕事を注文しにやってくるお客を待っているのだといいます。

 家の修理であったり、簡単な造作であったり、内容は様々ですが、ほとんどは一般家庭の大工仕事だそうです。注文主とは直接交渉。お客が男の腕前を見込み、見積額に納得すると契約成立です。

 「毎日仕事があるのですか」との問いに、ガイドさんは「そうとは限りません。2日も3日もお客がつかないこともあります」と、こともなげに言います。それでも、じっと客を待つ。いかにもアフリカらしいおおらかさです。

 観光を終え、夕方にも同じ場所を通りましたが、路上に並んだ道具袋の数はあまり減っていませんでした。たむろしているのはあぶれ組なのでしょう。 しかし、芝生の上で逆立ちをしたり、談笑したり、屈託のない表情です。
 「インアシャラー」。何ごとも神の思し召しのままに…ということでしょうか。

 このような風景はトリポリ市内の他の場所や第2の都市、ベンガジでも見かけました。
 男たちは、きょうものんびりと、いつ訪れるかわからない客を待ち続けていることでしょう。

 ところで、リビアが他国の出稼ぎ者をたくさん受け入れていることは、案外知られていないのではないでしょうか。
 その数は150万人とも聞きました。多くはアラブ語圏の近隣諸国からですが、石油コンビナートなどでは東南アジアの人も働いています。

 レストランで、ガソリンスタンドで、あるいはホテルで…。何人かの出稼ぎ青年に会いました。スーダン、マリ、セネガルなどの若者たちでしたが、みんな明るく一所懸命でした。

 青年たちはこれから腕を磨いて、その腕前を認められようとしています。街角で日長のんびりと客待ちする腕自慢の大工のおじさんたちとは事情が違います。
 「少しでも長くリビアに留まりたい」というのが願いです。

 その中でも印象に残ったのは、サハラ砂漠の入り口にあるガダメスという町のホテルで出会ったマリの青年です。「こんにちわ」「ありがとうございます」の日本語を教えると、すぐに覚えました。
 初めはちょっとした「座興」のつもりでしたが、「もっと日本語を覚えたい」といって次々に質問してきます。

 「さようなら」、「ともだち」、「おみやげ」などを教えると、単語の一つ一つをメモ帳に書き込んでいきます。きれいなローマ字でした。

 その後、様子を見ていると、暇なときにはメモ帳を眺めながら「ともだち」「おはようございます」などを呪文のように唱えています。

 このホテルには2泊したのですが、教えた10ほどの単語はすべて覚えてしまいました。
 「さようなら」。青年はしっかりした日本語で別れを惜しんでくれました。学習にどん欲。こちらの「腕前を買って下さい」には真剣みが満ちていました。

        (2000年2月のことでした)